ナカドコって何て意味?ベトナムの通学路事情とは?「世界のみんなとまち歩きワークショップ」開催レポ

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YUBISASHI 旅の指さし会話帳

Xin chào(シンチャオ)!(ベトナム語でこんにちは)

指さし会話帳編集部です。

突然ですが、「指さし会話帳」って何ですか?

…そう。本、ですよね。

ただ、この本を取り巻く環境も、指さしが創刊した1998年からずいぶんと状況が変わりました。まず、本そのものを、紙ではなくスマホやタブレットで読む機会が増えましたね。また、異なる母語話者同士のやりとりも、そんなスマホを使った機械翻訳でできるようになりました。

そのような時代の変化に、私たち指さし会話帳も他人事ではいられず…ということは、2年前のクラウドファンディングへのご支援者を含め、こちらのサイトでの記事や、メルマガの内容などをご覧いただている方はすでによく伝わっていることかと思います。

しかし、便利になる一方で、言葉が分からない者同士、「手探り(指さし)で相手を理解しようと、相手の言葉を口にし合うコミュニケーションにも価値がある」というわけで、本という形にこだわらず、私たちも最近はさまざまなチャレンジをしています。前回のZINE FESTへのブース出店もその一つですが、今回は今取り組んでいる「ワークショップ」を思い切って公開します!その理由も、最後に書かせていただいております。

全員神妙な顔つきになっているのはたまたまです

きっかけは、ある「労働現場」での日本語教育の相談から

実はこのワークショップ、最初から完成された企画として始まったわけではありませんでした。

きっかけは、外国人労働者が多く働く現場の方からいただいた「職場や作業現場で使える、もっと実践的な日本語教育やコミュニケーションの工夫はないか」というご相談。

現場で使われる指示や安全表現をどう伝えるか考えているうちに、例えば、「ネジを締める」といった写真やイラストの周りに、日本語はもちろん、それぞれの母語で自由に書き込んでいく『よせがき』みたいな形にしたら面白いんじゃないか?というアイデアが浮かんできたのです。

こちらは当初、生成AIでつくったイメージ図(フレーズはデタラメ混じり)。

面白そうだし、実際に外国人の友人を誘ってやってみよう!という話になり、企画を練っている段階で、「どうせ写真やイラストを使うなら、部屋の中に閉じこもっていないで、実際に外へ飛び出して『まち歩き』をした方が盛り上がるのでは?」と思い、「外国人と日本人が街歩きをしながら気になったものを写真に撮り、最後に母語で教え合う」という流れが決まりました。

実は、今これを書いている私(水嶋と言います)は、6月頃までとある島に暮らしており、そこで地域の子どもたちから大人たち、もちろん外国人の友人たちも一緒に「まち歩き」(島だと集落歩きという方が近いですが)をすることがしばしばあったんですよね。それをするだけでもおもしろいという確信はありましたが、そこに母語が違う者同士、それぞれ見つけたものをお互いの言葉を教え合うとよりおもしろいのではないかと思ったのでした。要素が増えると複雑だけど、同時にやるというわけではないので、できなくはなさそうだしやる価値はあるぞと。

ベトナム&東ティモールの仲間が集結!

今回はまず実験的な試みとして、友人に声をかけました。実は私、島に住む前はベトナムに住んでいたのですが(島とかベトナムとかややこしくてすみません、覚える必要はありません)、当時からよく遊んでくれたベトナム人の友人のラム君が東京に引っ越したということもあり、「また会ってご飯でも食べよう」と話していたので、タイミング的にもちょうどよかったのです。今回は奥さんのリーさんも連れて参加です。

ラム君とリーさん。ラム君と私はかれこれ15年近くになる付き合い。

また今回は、ベトナム以外にも、東ティモールからの留学中のペドロさんにも来ていただきました。彼は「指さし会話帳・東ティモール」の制作時につながった方(本書に寄稿もしてくれています)。著者の髙久直子さんは東ティモールに戻られたのですが、そのご縁でつながった方とこうして会えるというのは、素敵な展開です。と言いつつ、彼はわざわざ留学先の大学がある栃木から来てくれたので、恐悦至極…!

ペドロさん。目が閉じた瞬間の写真ですまない…!

日本人メンバーはというと、指さし会話帳の創刊編集者の細川さんや、マネージャーのUさんや、指さしとよく一緒に仕事することの多いWさん、そして私、水嶋。記事にはそれほど登場しませんが、指さし会話帳として何かするときにはおなじみのメンバーです。

やりまっせ~(中央で立っているのが私)

チュートリアルで大爆笑!「切る」の感覚ギャップと強烈すぎた「ナカドコ」

本格的な街歩きに出かける前に、まずはウォーミングアップとして室内でのチュートリアル(練習)からスタートしました。

そこで細川さんが用意したのは、「カレーの作り方の工程写真」や「地震のイラスト」など。

1. 「真ん中で2つに切る」に潜む食文化のギャップ

カレーの写真を使い、「じゃがいもを真ん中で2つに切る(半分に切る)」という現場の作業指示について議論したとき、面白いギャップが発覚しました。

ベトナム語や英語では「2つに切る」と言うだけで、デフォルトで「半分(等分)」を意味するため、日本の職場のように「真ん中で」「同じ大きさに」と細かく指定されすぎると、「なぜそこまで言うんだろう?」と不思議に思うのだそう。「教える/教わる」の一方通行ではなく、「前提となる生活や食文化が違うから表現も違うんだ」と知るだけで、現場の誤解が激減する手ごたえを得ました。

2. 一度聞いたら忘れられないテトゥン語「ナカドコ」

続いて「地震」のイラストを見ながら単語の構造を比較します。ベトナム語も、テトゥン語も、日本語と同じく「土(地面)+揺れる」という2語の組み合わせでできていることが分かり、「漢字の構造と一緒だ!」と盛り上がる中、テトゥン語の「地震」のフレーズに会場が揺れました。

テトゥン語で「地震」は、「ライ(土)+ナカドコ(揺れ)」=『ライ・ナカドコ』。

ナ カ ド コ ! ? 

その一度聴いたら忘れられない、そしてどことなく日本語のような、絶妙でチャーミングな語感に思わず全員がにっこり。

そういえば昔、ラオ語の「パニャニャンダー」(「がんばれ」の意味)という言葉の響きを初めて聞いたときも同じような衝撃を受けましたが、言語を覚える上で、こういう感情と一緒に記憶に残るインパクトがあるといいのかもしれません。

実際、ワークショップが終わった後のアンケートで「今日新しく覚えた言葉は?」と尋ねると、参加者全員(ペドロさん以外)が「ナカドコ!」と書いていたほどです(笑)。

「日本語を勉強して!」と押し付けるのではなく、日本人側が相手の母語に興味を持って教わる。その喜びに背中を押されて相手も「日本語を学びたい」と思える。指さし会話帳が四半世紀にわたって大切にしてきた、対話の原点を再確認できたチュートリアルでした。

アンケートの回答。「!」まで付けて…!

2チームに分かれてまち歩きへ!コンビニ印刷からの「よせがき」タイム

お互いの緊張が完全にほぐれたところで、いよいよ2つのグループに分かれて町へ繰り出します!

ルールはシンプル。歩きながら道端で「これってどういう意味?」「自分の国にはない!」と疑問や興味を持ったものをスマホで撮影。

これ、なんだろう?

そうして集まった写真たち。眺めているだけでもおもしろい。

まち歩きを終えたら近所のコンビニに立ち寄り、撮影した写真をマルチコピー機でプリントアウト。会場に戻って大きな模造紙に写真を貼り付け、おゃべりしながらそれぞれの母語や解説をふせんに書いて貼り付けて(よせがきして)いきました。

ペタペタと貼っていきます。日本人側も、それが何なのか伝わるように工夫して書くと参加者ごとの個性が出ました。

見慣れた街の風景が「アハ体験」に!写真から広がった発見

発表タイムでは、「なぜこの写真を選んだのか」「どんな発見があったのか」、そして「母語では何というのか」について共有し合いました。とくに印象深かった3つを紹介します。

「通学路」の標識

ラム君は子どもの頃に日本に住んでいたため、通学路そのものは理解していたのですが、ここで衝撃の事実を教えてくれます。

ベトナムに、通学路は、ないという。なぜなら、「ベトナムでは小学生も親のバイクで送迎されるから」。そもそも、子どもが歩いて学校に通う『通学路』という概念がないということですね。一方で、標識があるかはともかく、東ティモールでは歩いて学校に行くこともあるとのこと。もちろん、ベトナムや東ティモールといっても広いので、地域や家庭などの環境によって様々かとは思いますが。

いずれにせよ、街の標識ひとつから、各国の交通事情の違いへと話が大きく広がりました。

「こども110番の家」のステッカー

海外勢は看板を見て「子ども専用の警察?」「ポリスの板?」「シェルター?」と推測。不審者がいたときに自宅に駆け込める日本の地域防犯システムであることを説明すると、「個人の家に子どもが駆け込んで守ってもらえるなんて!」と驚いていました。

ただ、日本人側も「初めて知った!」という声があったので、意外と日本人同士でやってもそれなりに盛り上がるのかもしれません(笑)。

立体・地下埋設式駐車場

限られた土地を活用するために車が地面に沈んでいく日本の機械式駐車場も、海外出身者にとっては「動く駐車場!?」と非常にユニークに映ったようです。

みんなで貼った写真を背景に、記念撮影!

街のふしぎを、いろんな言語で解き明かそう!

今回は実験的なスタートで、それぞれ離れた場所に住んでいる友人たちに集まってもらいましたが、それでも非常に盛り上がりを見せ、「(次回は)同じ街に住む外国人と日本人に向けてやってみたいね」ということになりました。実際に今回のワークショップを通して、初対面同士の参加者も仲良くなりましたが、同じ町の住人同士がそうなれば、また何かで会ったときに会話が生まれやすくなります。街の居心地もよくなるでしょう。

また、こうして集った写真と単語を集めて、「次の展開として、街の指さし会話帳を作ったらおもしろいのでは!?」というアイデアも出ました。言ってみれば、これまでは「海外を旅するための会話帳を著者とつくってきた」わけですが、日本に様々な外国人の方が住むようになった今、「街で暮らすための会話帳を街の人たちとつくる」ということもありなんじゃないかということですね。

書店に並ぶ書籍ではなく、小冊子という点では、先日のZINE FESTで学んだZINEが参考になりそうです。

指さし会話帳、ZINEの祭典に初出店!浅草で読者の皆さんと語らってきました

そういうわけで、次回は同じ街に住んでいる人たちを中心にやってみたい。例えば、学生寮のある日本語学校や大学、地域の国際交流協会などが思い浮かびます。と言っても、私たちメンバーの誰かが、日本語教師をしているわけでも、国際交流協会の職員というわけでもありません。そこでまずは、「最近、こんなことをしています」と伝えたいと思い、こうして記事に書かせていただきました。

何度かやってみて試行錯誤を重ねていきたいと思っておりますので、「うちの日本語学校でもやってみたい!」「地域の国際交流協会のイベントとして取り入れてみたい」などなど、ご関心をお持ちの教育機関、自治体、国際交流団体、事業者の皆さまからの問い合わせやコラボレーションのご相談を大募集しております!ぜひ私達と一緒に、新しい対話の場を作っていきませんか?

ご興味のある方は、お気軽に指さし会話帳編集部までお問い合わせください。

 

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